スイングからモダンジャズへ「嵐を呼ぶ男」

 壁の飾りをかえました。石原裕次郎「嵐を呼ぶ男」昭和32年、作詞:井上梅次 作曲:大森盛太郎 編曲:河辺公一

 日活映画「嵐を呼ぶ男」の主題歌です。 昭和32年末に公開され昭和33年の正月映画として大ヒットしました。当時としても名作というより娯楽作品という位置づけであったようです。

 裕次郎と敵役のドラム対決が映画のヤマ場です。敵の策略で手にケガを負った石原が本番中ついにドラムを叩けなくなるが、突然マイクスタンド(1)を掴んで歌い出す、観客から拍手喝采、という無茶すぎる展開です。歌詞もセリフも相当にクサいです。歌唱もお世辞にも上手いと言えません。

 ところがこの曲、伴奏がしっかりしているうえに、間奏がメチャクチャカッコイイんです!1コーラス後はサックス、2コーラス後はピアノの即興演奏、そう間奏だけモダンジャズなんですね。間奏だけ浮いている気すらします。「嵐を呼ぶ男」は、わかりやすい歌謡メロディーと、先端のモダンジャズを混ぜ合わせたサウンドなのです(3)。

 米国では1945年頃から、日本では1950年頃からジャズの先端はスイングからモダンジャズへの流れになりました。スイング=「大編成、楽譜演奏中心、ダンスミュージック、大衆的」、モダンジャズ=「小編成、即興演奏重視、じっくり小会場で聴く、マニア向け芸術的」という対比でしょうか(4)。前回の戦後の服部スイングと本作を聴き比べると、スイングからモダンジャズへの時代の流れを感じ取れます。

 流行歌はメロディー中心の方が受けますから、即興演奏を旨とし和声から外れた音を多用するモダンジャズとは相容れません。しかしジャズドラマーの物語なんだからジャズらしい部分も入れたい、そこで間奏にモダンジャズを入れたのだろうと思います。劇伴の名作モダンジャズはたくさんありますが、歌付き流行歌でこんな風にモダンジャズを取り入れて成功したものは他に思い浮かびません。こんなアンバランスを味わうのも歌謡曲の醍醐味です。

 皆様、裕次郎さんの「嵐を呼ぶ男」改めてお聴きになってぜひ当時のジャズメン達の熱気あふれるサウンドをお楽しみください。 (院長)

 

(1)画像から見るにAIWA(アイワ)製リボンマイロフォンだと思います。リボンマイクは繊細で衝撃に弱いのでこの映画みたいに振り回してはいけません。

(2)レコードには演奏「白木秀雄とオールスターズ」とあります。石原のドラムは白木秀雄、敵役・笈田敏夫のドラムは猪俣猛が叩いています。ほかに松本英彦(テナー・サックス)、河辺公一(トロンボーン)、山崎唯(ピアノ)が参加したと言われています。

(3)マイク・モラスキー「戦後日本のジャズ文化」2017年岩波現代文庫(初出2005年青土社)より"ジャズは基本的には歌手のない器楽演奏として発展してきた。ところが、歌手がいることによって、それほどジャズ好きでない聴衆の間でもジャズの人気が高まる"

(4)こんな解説をつけていますが、難解なので院長はモダンジャズをあまり聴いていません。色々間違ってたらすみませんです。

 

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