ハートブレイク・ホテル

壁の飾りをかえました

エルヴィス・プレスリー「ハートブレイク・ホテル」1956年

 前々回の山口百恵「イミテイションゴールド」の始まり部分がこれに似てるんですよ。ぜひ皆様聴いてください。作曲の宇崎竜童はかなり意識していたはずです。

 誰もが知る有名曲なので、ロックにおける重要性や当時の若者に与えた影響なんてのはここでは省略します。院長もロックンロール大好きなので、ここは1955-56年のプレスリーについて細かいことを紹介したいです。この時期のプレスリーで重要なことはSun Records(サン・レコード)からRCAへの移籍でしょう。移籍することでちょっとずつサウンドが変わってきたりするところが味わいなのです。そんなこと言われてもなんのこっちゃわからんという人もすこしだけお聞きください。

 プレスリーは故郷のテネシー州メンフィスで1954年にデビューしました、Sun Recordsというレコード会社です。田舎町のレコード会社なわけですが、ここからロックンロールの偉人たちがいっぱい出てるんですよ、エルビス・プレスリー、ジェリーリールイス、カール・パーキンス、ジョニー・キャッシュ、ロイ・オービソンetc ・・・プレスリーが地元でヒットを飛ばしまくっていたところ、全米規模の大手レコード会社RCA(1)が1955年プレスリーの権利を丸々買い取ったのです。そしてRCA移籍第一弾のシングルがこれなのです。

 録音は1956/1/10-11にテネシー州ナッシュビル(1)で行われました。Sun時代のメンバーであるギター:スコッティ・ムーア(カントリースタイルの演奏法でカッコイイロカビリーを演奏する)、ベース:ビル・ブラック(コントラバスでスラップ・ベースを繰り出す、まるで打楽器のようなリズムを出す)も引き続き参加しています。何と、カントリーギターの名人チェット・アトキンスも入っているという、知らなかった!そしてこの録音からドラムにD.J.フォンタナ、ピアノにフロイド・クレーマー、コーラスのジョーダネアーズなども加わっています。

 Sun時代はドラムなしの曲が多かったのですが、RCAは全国区だし資金力があるので、演奏を豪華にしようという意向だったのでしょうね。

 この2日に”I was the one/ただ一人の男=本作のB面”(ロッカバラード)、”I got a woman”(R&B をロカビリー調に演奏)、"Money honey"(R&B)、"I'm counting on you"(ロッカバラード)も録音されました。

 Sunがロカビリー中心だったのに対して、RCAはロッカバラードなんかも採用し甘い目テイストにして全米に幅広く売ろうという姿勢が見られます。

 あとSunと違うのがエコー(残響効果)です。Sun Recordsでは「スラップ・バックエコー/Slap back echo」(3)というエコーサウンドが使われていて、独特の残響効果を出していました。移籍後のRCAの技術者はこのエコーサウンドの出し方よく知っておらず、元々会社にあった「エコー・チェンバー/echo chamber」というエコーを録音するためだけの超大きい部屋を使って録音したそうです(4)。。「ハートブレイクホテル」のむちゃくちゃ響きまくっているサウンドの元はエコーチェンバーにあったのです。なお後年になると電気的に作れるようになったのでこのエコー形式は廃れました。

 本作は大ヒットしビルボード1位を獲得、200万枚も売れたそうです。プレスリーはこのあと次々ヒットを出してゆきます。はじめのうちはロックンロールだったのだが、売るためなんでしょうか、アイドル化して甘い目サウンドになっていくんですよね。あと映画出演したり1958-60の兵役なんかでだんだんスタイルが変遷していくのです。

 ロックンロール時代のプレスリー、皆様ぜひともお聴きになってください。(2025.10.1 院長)

 

(1)RCA Radio Corporation of Ameriaは米国の電気通信会社。Victorレーベルでレコードを販売。

(2)Nashville ナッシュビル:カントリー音楽の聖地

(3)Slap back echoはテープレコーダー2台を使い、全く同じ録音をわずかな時間差で再生し再録音することで、音の時間差 (delay/ディレイ)を生み出し残響効果をだす。50年代のロカビリーなどでよく使われたサウンドです。

(4)Echo chamber:風呂場や教会等のホールに入ると音が響くのと同じ仕組みです。当時、大手レコード会社は映画音楽の効果音を作ったりするのにエコーチェンバー室を複数建設していた。

 

カテゴリ 音楽

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